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曙覧の歌-その9

  • 2009/07/23(木) 09:45:39

酔人の水にうちいるる石つぶてかひなきわざに臂(ひじ)を張る哉

 これも上三句重く下二句軽し。曙覧の歌は多くこの頭重脚軽(とうじゅうきゃくけい)の病あり。

宰相君(さいしょうのきみ)よりたけを賜はらせけるに

秋の香をひろげたてつる松のかさいただきまつるもろ手ささげて

 これも前の歌と同じく下二句軽くして結び得ず。

羊腸(つづらおり)ありともしらで人のせに負(おわ)れて秋の山ふみをしつ

 これも頭重脚軽なり。この歌にては「背に負はれ」というが主眼なれば、この主眼を結句に置かざれば据わらざるべし。

ふくろふの糊すりおけと呼ぶ声に衣(きぬ)ときはなち妹は夜ふかす

こぼれ糸※(「糸+麗」、第4水準2-84-64)(さで)につくりて魚とると二郎太郎三郎川に日くらす

 この歌はいずれも趣向の複雑したる歌なれば結句に千鈞(せんきん)の力なかるべからず。しかるに二首ともに結句の力、上三句に比して弱きを覚ゆ。ことに第四句に「二郎太郎三郎」などいえるつまりたる語を用いなば、第五句はますます重く強きを要す。

 曙覧の歌調を概論すれば第二句重く第四句軽く、結句は力弱くして全首を結ぶに足らざるもの最も多きに居る。『万葉』にこの頭重脚軽の病なきはもちろん、『古今』にもまたなし。徳川氏の末ようやく複雑なる趣向を取るに至りて多くは皆この病を免れず。曙覧また同じ。曙覧はほとんど歌調を解せず。歌調を解せざるがために彼はついに歌人たるを得ずして終れり。

 これを要するに曙覧の歌は『万葉』に実朝に及ばざること遠しといえども、貫之(つらゆき)以下今日に至る幾百の歌人を圧倒し尽せり。新言語を用い新趣向を求めたる彼の卓見は歌学史上特筆して後に伝えざるべからず。彼は歌人として実朝以後ただ一人(いちにん)なり。真淵、景樹、諸平、文雄輩に比すれば彼は鶏群の孤鶴(こかく)なり。歌人として彼を賞賛するに千言万語を費すとも過賛にはあらざるべし。しかれども彼の和歌をもってこれを俳句に比せんか。彼はほとんど作家と称せらるるだけの価値をも有せざるべし。彼が新言語を用うるに先だつ百四、五十年前に芭蕉一派の俳人は、彼が用いしよりも遥(はる)かに多き新言語を用いたり。彼の歌想は他の歌想に比して進歩したるところありとこそいうべけれ、これを俳句の進歩に比すれば未(いま)だその門墻(もんしょう)をも覗(うかが)い得ざるところにあり。俳人の極めて幼稚なるものといえども、趣味の多様なることは曙覧の歌のわずかに新奇ならんとせしがごときに非ず。曙覧をして俳人ならしめば、ほとんどその名だに伝うるあたわざりしなるべし。いわんや彼は全く調子を解せざるをや。しかるにかくのごとき曙覧をも古来有数の歌人として賞せざるべからざる歌界の衰退は、あわれにも気の毒の次第と謂(い)わざるべからず。余は曙覧を論ずるに方(あた)りて実にその褒貶(ほうへん)に迷えり。もしそれ曙覧の人品性行に至りては磊々落々(らいらいらくらく)世間の名利に拘束せられず、正を守り義を取り俯仰(ふぎょう)天地に愧(は)じざる、けだし絶無僅有(きんゆう)の人なり。

この稿を草する半(なかば)にして、曙覧翁(おう)の令嗣(れいし)今滋(いましげ)氏特に草廬(そうろ)を敲(たた)いて翁の伝記及び随筆等を示さる。因(よ)って翁の小伝を掲げて読者の瀏覧(りゅうらん)に供せんとす。歌と伝と相照し見ば曙覧翁眼前にあらん。

竹の里人付記


〔『日本』明治三十二年四月二十三日〕





底本:「子規選集 第七巻 子規の短歌革新」増進会出版社
   2002(平成14)年4月12日初版第1刷発行
底本の親本:「子規全集 第七卷 歌論 選歌」講談社
   1975(昭和50)年7月18日第1刷発行
初出:「日本」日本新聞社
   1899(明治32)年3月22日~24日
   1899(明治32)年3月26日
   1899(明治32)年3月28日
   1899(明治32)年3月30日
   1899(明治32)年4月9日
   1899(明治32)年4月22日~23日

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